「存在させるべきか、存在させないべきか、それとも？」――『ハンス・ヨナス 未来への責任』刊行記念対談 in京都
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近年、気候変動の脅威はもはや無視できないものになってきました。ニュースでは毎日のように異常気象が伝えられ、その被害は遠い世界の話ではなく、私たちの日常生活を直撃しています。しかもそれは自然に収まるものではありません。先進諸国の人々が行動を変容し、CO2排出量を削減していかなければ、100年後、200年後の世代にさらに大きな被害が及ぶと推定されています。
このような意味で、私たち現在世代は、未来世代を配慮する責任を負っている、と言えます。ただし、100年後、200年後の世代はいまはまだ存在しません。そうである以上、この責任はまだ存在していないものへの配慮として考えられなければなりません。しかし、このような責任はいったいどのようにして正当化されるのでしょうか。
このような疑問に対して、ドイツ出身のユダヤ人哲学者であるハンス・ヨナスは、この世界に人類が存続することへの責任を訴え、ここから未来世代への責任を基礎づけました。その基礎づけは、人間・生命・世界を包括する壮大な自然哲学に基づきながら、体系的に論じられています。戸谷洋志氏は『ハンス・ヨナス 未来への責任』（慶應義塾大学出版会／2021）で、こうしたヨナスの倫理学の全体像を再構成し、その現代的な意義を検討しました。その思想は、気候変動によって未来世代への脅威が改めて意識されている今日において、再び注目を集めています。
しかし、果たして人類を存続させることは、未来世代にとってよいことなのでしょうか。現在世代の勝手な判断のために「生まれさせられる」未来世代にとって、それは「余計なお世話」ではないのでしょうか。むしろ、生まれてこないこと、あるいは早く滅亡してゆくことのほうが、人類にとっては幸せなのではないでしょうか。このような観点から、近年、「反出生主義」や「死亡促進主義」などの新しいラディカルな思想が隆盛しています。長谷奏音氏は、これらの議論にコミットしながら、人間にとっての出生と死の倫理的な価値について研究し、その意義や可能性を問い直しています。
未来世代への責任とは、人類を存続させることなのか、それとも存続させないことなのか。その選択に迫られるとき、私たちは、そもそも責任とは何か、出生とは何か、価値とは何か、という原理的な問題に直面せざるをえなくなります。そしてそれらは、生殖・安楽死・動物倫理など、そこから派生するより具体的な問題に対する私たちの判断へと、波及していくことになります。
今回は、これらの問題に対して異なる視点をもつ戸谷氏と長谷氏に、未来への責任について語り合っていただきたいと思います。
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